認知症

物忘れ・認知症

年をとると誰しも「物忘れ」が増えてきます。
今まで普通にやれていたことが急に出来なくなった、通い慣れているはずの道がわからなくなった、大切な約束を忘れてしまった、同じことを何度も聞いたりするようになった――こうした物忘れには、単なる加齢による場合(生理的健忘)と、軽度認知障害(MCI)、認知症の初期段階の場合とがあります。そして、いずれかを見極める診断が非常に大切になってきますので、物忘れが増えてきたと思ったら、一度専門医を受診なさるよう、お勧めいたします。

生理的健忘

加齢にともなう年齢相応の「物忘れ」で、誰でも年をとるとともに多かれ少なかれありますので心配いりません。

軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)

認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)に問題が生じてはいるものの、日常生活には支障が無い状態のことで、健常者と認知症の人の中間段階(グレーゾーン)に位置します。 MCI(軽度認知障害)を放置しておくと、認知機能が低下していき、5年間で約50%の人が「認知症」へ進行すると言われます。しかしMCIの段階で適切な治療を行うと、本格的な認知症の発症を防いだり遅らせたり出来る場合があるので、MCIと診断されたら早めに治療を受けるようにしましょう。

認知症

認知症とは、正常にはたらいていた脳の機能が低下し、記憶や思考への影響が見られる病気です。 物事を記憶したり判断したりする能力や、時間や場所・人などを認知する能力などが低下するため、日常生活に支障が出てきます。
こんな症状の方はご相談ください
  • ものの名前が思い出せない
  • しまい忘れや置き忘れが多い
  • 財布やクレジットカードなど、大切なものをよく失くすようになった
  • これまで使っていた電化製品やリモコンの使い方がわからなくなった
ご家族のこんな症状にお気づきの方はご相談ください
  • 時間や場所を間違えたり、忘れてしまう
  • 何度も同じことを言ったり、聞いたりする
  • 慣れている場所なのに、道に迷った
  • 薬の管理が出来なくなった
  • 以前好きだったことや、趣味に対する興味が薄れた
  • 鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりが目立つようになった
  • 料理のレパートリーが極端に減り、同じ料理ばかり作るようになった
  • 作り慣れた料理のはずが味付けがおかしい
  • 献立をなかなか決められない
  • 以前より怒りっぽくなった
  • 財布や通帳を「盗まれた」と言って騒ぐことがある
  • 映画やドラマの内容を理解出来なくなった
認知症の種類

認知症は、脳の病気や障害のために、正常だった記憶や思考などの能力が低下していく障害です。
認知症は、「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」の大きく3つに分けられます。
それ以外にも水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症でも認知機能が低下することがあります。 これらは早期に適切な治療を行うことで改善が期待できます。

① アルツハイマー型は65歳以上の女性に多く、原因は脳の変性であり、ゆっくり進行します(若年型は比較的早く進行します)。自覚症状は無いことが多く、抗認知症薬等で治療を行います。
② レビー小体型認知症は最近注目されています。1976年に日本の小阪憲司先生(現横浜市立大学名誉教授)らによって発見されました。アルツハイマー型が、女性の発症率が高いのに比べ、レビー小体型は男性の方が多く、女性の約2倍と言われています。物忘れよりも幻視(実際にはない物が見える)やパーキンソン症状(小刻み歩行、前傾姿勢、手のふるえ、突進歩行)がみられたりします。その他睡眠時の行動異常(寝ている時に大声を出したり暴れたり)がみられることもあります。
③脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害によって起こる認知症です。脳の血管が詰まっている梗塞巣が増えたり、大きくなったりするたびに次第に脳の機能が低下することで認知症や運動障害が引き起こされます。
原因となる血管障害は主に生活習慣病が原因で引き起こされます。そのため高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病などにならないようにするのが脳血管性認知症の予防につながり、生活習慣の改善が大切です。また、脳血管性認知症の原因となる脳血管障害を早期に治療してリハビリを行えば、症状の進行を抑えることも可能です。
認知症の治療

認知症を完全に治す治療法は、まだありません。そこで、出来るだけ症状を軽くして、進行速度を遅らせることが治療目標となります。
治療法には、薬物療法と非薬物療法があります。
このうち薬物療法は、アルツハイマー型認知症の中核症状の進行をある程度抑える効果が期待される薬が数種類あるだけで、脳血管性認知症に効果がある薬剤は今のところ存在しません。そのため、非薬物療法によって症状を抑えることが主な治療法となります。

薬物療法

認知症の薬物治療には、認知機能の低下や進行を遅らせる治療と、行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)を抑える治療があります。薬の効果と副作用を定期的にチェックしながら、患者様の症状に合わせて使用していきます。

非薬物療法

認知症と診断されても、本人に出来ることはたくさん残っていますので、家庭内で本人の役割や出番をつくって、前向きに日常生活を送ってもらうことが大切です。書き取りやドリルなどの認知リハビリテーションのみならず、昔の出来事を思い出してもらうこと(回想法)、家族以外の人たちと交流すること(デイサービスや地域の集まり)なども脳の活性化を促します。