抑うつ状態・うつ病
人は誰しも悲しいことや失敗などの体験をすると、気持ちが落ち込んだり、憂うつになったります。しかし、こうした「うつ状態」は時間とともに薄れていき、元の状態に戻るものです。ところが、そうした気分が長く続き、普段の生活に支障を来たすようになると「うつ病」となり、治療の対象となります。
うつ病は“こころの風邪”と言われるほど有病率の高い病気で、人口の5~10%の方が、生涯に一度はうつ病にかかると言われています。 「こころの風邪」は決して「軽い病気」という意味ではなく「誰もがかかりうる」という意味です。
医療現場では、うつ病はごくありふれた病気です。しかし一方で、患者さんのうつ病に対する理解は未だ十分とは言えず、心療内科や精神科を受診することをためらったり、性格の問題と考えてしまったりする人も少なくありません。
うつ病は生活や環境の変化が過度なストレスとなって、それをきっかけに起こることがあります。 原因となる出来事は、身近な人の死やリストラなどの悲しい出来事だけでなく、結婚や出産・昇進といった一見うれしい出来事でも、うつ病を引き起こすことが少なくありません。現代社会はストレスに満ちています。ストレスがうまく解消されないで、心と体のバランスが崩れ、心身に不調をきたすことは誰にも起こり得ます。
眠れない、食欲が無い、一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといったことが2週間以上続いている場合は、うつ病かも知れません。単なる気分の問題や「怠けているだけ」などと考えず、専門医に相談してみましょう。
うつ病の原因
うつ病の原因は患者さんによって千差万別ですが、脳内の神経伝達物質のはたらきが悪くなるのに加え、ストレスや体の病気、環境変化など、さまざまな要因が絡み合って発病すると考えられています。
脳がうまくはたらいてくれないので、ものの見方が否定的になったり、悲観的な考えになり自分がダメな人間のように感じられてしまいます。そのため普段なら乗り越えられるようなストレスも、より辛く感じられてしまうという、悪循環が生じてきます。
うつ病の精神・身体症状はご自身ではなかなか気づきにくいため、周囲の人が先に症状に気づき、遅刻が多い、怠けている、などと誤解され、非難されるようなケースも少なくありません。
一方、体が疲れてどうにも動かない、体がだるい、疲れやすい、仕事や家事の能率が下がった、体がついてこないなどの症状で、ご自身で自覚する場合も多いようです。
こうした状態になったら、一人で悩まず、とにかく早めに専門医にご相談ください。治療を早く始めるほど、回復も早いと言われます
うつ病の代表的な症状
- 憂うつで、気分が重い
- 何をしても楽しくない、何にも興味がわかない
- 疲れているのに眠れない、一日中眠い、いつもよりかなり早く目覚める
- きっかけもなく不安になる、気持ちが焦る
- 体がだるい。検査しても異常がない。
- イライラして、何かにせき立てられているようで落ち着かない
- 自分が悪いことをしたように感じて自分を責める
- 自分が価値の無い人間のように思える
- 食欲、性欲が低下する
- 思考力、決断力が落ちる
- 死にたくなる、消えてしまいたくなる など
うつ病の治療
うつ病は適切な治療さえ受ければ、必ず良い方向に向かっていきます。
現在のうつ病治療は、下記の3つの柱が中心となっています。
- 休養と環境調整
- 薬物療法
- 精神療法
まずは休養が大切
とりあえず精神的にも肉体的にも十分に休養をとって、疲れた心と体をしっかり休めることが大切です。そのためには職場や学校、家族の理解と協力を得ることも必要になってくるでしょう。
うつ病の薬物療法
そして一般的に、抗うつ薬によってうつ症状の原因となっている脳内神経伝達物質のはたらきを改善します。
抗うつ薬にはSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)といったものから、三環系抗うつ薬など、いくつかのグループがあり、抗うつ薬のほかにも、症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤なども使われます。
また、躁状態や軽躁状態を経験したことがある人の場合は、うつ病ではなく双極性障害*と診断され、気分安定薬が用いられます。
どの薬が効くかは治療を受ける患者さん一人一人で異なり、また同じ人でも病気がどの段階にあるのかによって違ってきます。
うつ病の精神療法
性格的にストレスなどの影響を受けやすい人には、精神療法的なアプローチが効果的です。精神療法(主に心理的側面からのはたらきかけにより精神疾患の治療をする方法)の中心は「認知行動療法」で、これは患者さんの認知(ものの考え方や受け取り方)の歪みやクセ、およびそれに基づく行動を修正して、患者さんに生じてくるさまざまな問題を上手に解決出来るように支援する治療法です。
うつ病になりやすい人には、生真面目で責任感が強く、人あたりもよく、そのため周囲の評価も高いタイプが多いと言われます。こうした方は、とかくすべてに完璧を求めがちですが、物事に優先順位をつけてうまくやっていくようにするなど、認知を変えていくことも大切です。
※双極性障害:うつ病は、うつ症状だけが生じる病気ですが、双極性障害とは、うつ症状に加え、うつとは正反対の躁症状も現れ、「うつ状態」と「躁状態」を反復する慢性の精神疾患を言います。以前は一般に「躁うつ病」と称されていましたが、現在では「双極性障害」と呼ばれています。 「うつ状態」についてはうつ病と同じ症状ですが、「躁状態」では、眠らなくても平気、やたら機嫌が良い、おしゃべりになる、テンションが高い、行動的になる、楽観的になる、休まなくても疲れない、頭が冴える、気前がよくなる、などの症状が不自然なまでに過剰に現れてきます。